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「ダッブーダッブーかえろー」
 遊戯室をのぞきこんで、トーマスは友達の名前を呼びました。
ダッブとここで落ち合って一緒に帰る約束をしていたのです。
しかし返事はなく、代わりに同じく遊戯室にいた双子が口に指を立てながら答えました。
「しーっ」
「待ってる間に寝ちゃったのよ」
「そっかぁ」
 エイミーとポリーにそう言われても、トーマスはいつものことだと納得しました。
待ち合わせの時間にダッブが寝ているのは、あまり珍しいことではありません。
しかし友達を起こそうと遊戯室に立ち入って、あらためてトーマスは驚きの声を上げました。
「キャメルも一緒だ」
 パズルの形をしたパネルマットの上に、目を閉じたダッブと、
そしてそれを抱きかかえるようにキャメルが小さな寝息を立てていました。
「うわぁ、ダッブ赤ちゃんみたいだ」
 トーマスと一緒に部屋に入ってきたアレックスが、きっと自分の小さな弟のことを
想像したのでしょう、2人をのぞき込んでそう言いました。
「ホントね」
 双子がそれに賛同して、それからしばらく、4人はいかにも安らいだ2人の寝顔を眺めていました。
起きていれば、ちょっと皮肉屋で怒りんぼで、口達者な上に手も足も出るキャメルと、
いつも難しい顔で何事かを考えているダッブが、そろってこんな顔をしているのは滅多にないことです。
このときとばかりにみんな、キャメルの少し開かれた口元やゆるんだ眉の間、
それからダッブのつるつるとしたまぶたの辺りを見つめました。
「ふふっ、2人ともかわいい」
 誰からともなく、そんなことを言い始めます。
「うん、かわいい」
「キャメル、いつもこんな風にしてればいいのに」
「ね、すぐ怒るんだもの。こうしてる方がかわいいわ」
「キャメルはいつでもかわいいよ」
「それはそうだけどね」
「ダッブもいつもは何を考えてるのかしら?」
「私、ダッブの笑ったところ見たことないわ」
「今度くすぐってみようよ」
「そんなことしなくても、ダッブはいつも楽しそうだから大丈夫だよ」
「そっかあ」
「それにしてもかわいいわね」
「かわいいなあ」
「かわいいね」
「かわいい」
「……バカじゃないか」
 声がして、みんなはキャメルの眉間に、いつの間にか小さなしわが寄っているのに気付きました。
その下の瞳が開かれて、じろりとトーマスたちの方を睨みます。
「あ、起きた」
「おはようキャメル」
「もう帰る時間よ」
「うるさいな、知ってるよ。だから起きたんじゃないか」
 みんなの見ている前で、キャメルはダッブの頭の下から腕を抜き、それから身体を起こしました。
しかめっ面といい低い声といい、いかにも不機嫌だといわんばかりです。
「人が寝てると思って、好き勝手に言って」
「聞こえた?」
「聞いたよ、バカ!」
 声を上げて、キャメルは一番手近にあったアレックスの足をぽかりと叩きました。
「痛っ」
「今度言ったら、許さないからな!」
「何を?」
 アレックスが叩かれた足を押さえる隣で、トーマスはきょとんとしてキャメルに聞きました。
その答えを待たずに、エイミーとポリーが口を開きます。2人はちゃんと、キャメルの不機嫌の理由に気付いていました。
「かわいいって?」
「だってホントのことよ」
「そうよ、本当にかわいいもの」
 その言葉を繰り返される内に、見る見るキャメルの頬が真っ赤に染まります。
「そうなの? かわいいって言っちゃダメなの? キャメルかわいいって言われるの嫌い? どうして?」
 続けて、トーマスの矢継ぎ早の質問に、
「か、かわいいって言うな!」
 とうとうキャメルは耳まで真っ赤にしてそう叫びました。
「あははははっ!」
 その顔にようやく合点がいったトーマスが大きな笑い声を上げるその側で、
「きゃー! かわいいっ!!」
「キャメル大好きー!!」
 ふたごは感極まったかのようにキャメルに飛びつき、
「う、うるさい!!! やめろって! 離れてよ!!」
 その下でキャメルは手足をばたつかせて、
「わー!!」
 そしてアレックスは笑いながら、とばっちりを避けるために走って逃げ出しました。

「………………Zzz」
 そんな騒ぎの中、ダッブはいかにも我関せずといった様子で、健やかな寝息を立て続けていたのでした。



ダッブはすぐ寝るよく寝るいつでも寝る。そして寝たら起きない。
キャメルは眠くなるとぐずって手近な物を抱っこする癖あり。
トーマスは微妙に空気読めない子。