「お嬢様、この位置でよろしいでしょうか」
落ち着き払った声が、ルディの目の前の女性の口から発せられました。しかしそれは決してルディに向けられたものではありません。先ほどから、あるいは事の最初からずっと、ルディの意思など全く彼女の思考の外でした。
女の名はエヴァ。この館の主、つまりシェリー様に仕える侍女であり、そして従医でもあると、他でもないシェリー様から説明されました。従医というのはお医者様のことだとルディは素直に考えましたが、実際の彼女の仕事ぶりはルディの想像を遙かに超えていました。確かに、エヴァはお嬢様の身体について誰よりもよく知っていて、その健康に責任を負っていました。お嬢様が病めば治し、傷つけば癒すのです。同時に、この館の様々な人間の体調についても面倒を見てやっていました。怪我の手当をしてやったり、不調を訴えるものに対して薬を調合したり、といった風にです。けれどお嬢様がもっとも重宝していたのは、本来ならば彼女のもつ能力の側面的な部分です。つまり彼女は他人を癒す術と相対、あるいは相乗していかに効率よく他人を傷つけるかについてよく知っていて、ひとたびお嬢様の命が下ればその腕は容赦なく振るわれるのです。
そう例えば、哀れな少年の最も敏感な部分に装飾品用の穴を穿つといったような。
今、斜めに傾いだ寝台に拘束されたルディの前に座り、後ろを振り返った彼女の右手には太い針が握られ、そして左手はルディのペニスに添えられています。これから起きることを理解した瞬間から、恐怖にルディのペニスはすっかり縮こまっていましたから、そこから余った皮をつまむのはいかにも簡単な様子でした。
彼女の視線の先で、お嬢様は悠然と笑って答えます。
「どこだろうと構わん。良いようにしろ」
ルディにとっては不幸以外の何物でもありませんでしたが、この忠実な侍女の仕事ぶりをお嬢様は信頼しているようでした。悩む素振りなど微塵もなく、すべてをエヴァの手に委ねます。
「かしこまりました」
一つうなずいて彼女はルディに向き直ると、初めてルディと目を合わせて、静かに言いました。
「不安に思う必要はありません。私には十分な知識と技術があります。機能には全く問題を残しません」
それはルディを慰めようとしたようにも、ただ事実を述べただけのようにも聞こえました。どちらにせよ結果に変わりはないのでしょう。
「ふふ、早くしてやれ。待ち焦がれているぞ」
茶化すようにお嬢様が言い、それが合図となりました。ルディの眼前で、驚くべき手際の良さで針が皮を貫通し、続いて輪になった金属製のピアスが取り付けられ、血が滴となってしたたり落ちるよりも前に、やけにひやりとする液体で濡れた布が傷口にあてがわれました。
「終わりました」
お嬢様か、ルディか、あるいはその両方に向けて、エヴァが言いました。
布に赤い染みが広がり始めると同時に、思い出したかのように痛みが襲ってきました。のたうち回るほどの激痛ではなく、膝を抱いてうずくまるほどの鈍痛でもなく、しかし確かにどくどくと脈打つ痛みです。無意識に止めていた息を細く吐き出すと、震えに合わせて涙がこぼれ落ちました。たった数秒間の出来事です。にじむ視界の中、自身の性器にぶら下がる金属の輪を、ルディは信じられない気持ちで見つめていました。