魔術師ツェッペンシュトルンのお話 I


「よう」
「ああ、安心しろ。アンタは店を間違えわけじゃない。看板を確認しなくてもいい」
「見た顔だな。前ここにじいさんがいただろう。そうだ、偉大なる魔術師ツェッペンシュトルン。おれの飼い主だ」
「まあ聞けよ。じいさんは少し前に、そろそろ年だってもんで、弟子をとった。若く才能溢れる魔術師だ。じいさんの知恵と技術に惚れ込んで、弟子はそりゃあ熱心にじいさんに学んだ。だがじいさんは猜疑心の塊みたいな人間でね。弟子にいつか寝首をかかれるんじゃないかと夜も眠れず、しまいにゃ弟子を殺して食っちまった」
「似たようなことが度重なって4回」
「まったくイカレたじいさんだよ」
「だが大した魔術師には違いないな。じいさんの相伴に預かってた子猫が、人血と肉を介して人知を得た。それを見て、じいさんは後継者を決めた。ただの猫にこの世の理を解させ、魔術師たらしめたんだ」
「いや、やっぱりイカレてるな。だって猫だよ」
「まあとにかく、おれはじいさんから魔術を習ったんだ」
「そのじいさんもおれに食われて、今じゃおれがツェッペンシュトルンだ」
「ご要望はなんだい、お客さん?」
「魔術師ツェッペンシュトルンの店にようこそ」