『XXの最中のお嬢様はMかわいい』
その日の午後、傾いた日が山の縁にさしかかるにはまだ少し猶予のある頃に、1人の男がベルスート城の執務室を訪れた。まだ年若く、どこか少年らしさを残してはいるが、屈強な身体と黒い上下揃いの軍服が見る人を圧倒する偉丈夫である。名をケンニヒと言い、城主である父親に代わって政務を行うシェリーにとっては、従兄にあたる。『誉れ高き近衛兵団団長』などという仰々しい肩書きも持ち合わせており、彼女とは主従関係にあるが、幼い頃からベルスートで兄妹のように育ち、気心の知れた仲である。
だからシェリーも、ケンニヒが入ってきたのを特別出迎えたりはせず、部屋の入口に向かって置かれた机についたまま、一瞥しただけだった。彼女も政務にあたって軍服を着ていたが、窓から日があたるせいか、上着は脱いである。シャツや下半身の基本的なスタイルはケンニヒのそれと同じだが、細部にはより華美な意匠がほどこされ、しぼったウエストや膝下まであるブーツは彼女専用に仕立てられている。
慣例的に休憩を取る時間帯だが、シェリーは黙々とペンを走らせ、機嫌を伺いに来た侍女を下がらせた。その直後だ。
「何の用だ」
手身近に済ませろと言外に忍ばせて、シェリーはケンニヒが口を開く前に聞いた。ケンニヒは机の前に立つと、長身からシェリーを見下ろしながら、にこりともせずに言う。
「少し休め」
ひょっとして聞き逃した前後の文脈が他にあったのかと、探したくなるような単刀直入な言葉だったが、シェリーは従兄のそんな物言いに慣れていた。こちらも愛想笑いの一つも浮かべず、相手の提案を受け入れたようで、その実、拒否の返事を返す。
「これが終わったらな」
と指したのは、今手にしている書類だけではない。その他机に山積みになった諸々の仕事のつもりだった。
それに気づくと、ケンニヒは生まれついての仏頂面の、眉間のしわを一層深くした。回り込んでシェリーの側に立つと、
「立て」
と言いながら、返事を待たずに胸ぐらを掴む。意表をつかれたシェリーは、半ば持ち上げられる形で席を立った。
少女にとって相手は見上げても足りないほどの大男だが、今さらそれでひるむような仲でもないし、そもそも男の拳一つに怯えるような性格でもない。眉をひそめると、すぐさま彼の手を引きはがそうと指をかけた。しかしケンニヒの方が上手で、シェリーの引く力さえ利用して、両手で彼女のシャツを左右に引きちぎる。素手で岩をも砕く剛腕である。ビキビキと縫い糸の千切れる音がして、穴をくぐる余裕もなかった釦のいくつかははじけ飛んだ。
「………!!」
その意図を察して、シェリーの目が血気を帯びる。瞬時に、露になった胸元はそのままに、相手の懐に踏み込んだ。鳩尾に拳を叩き込もうとする。しかし寸前で掴まれた。ケンニヒはシェリーの手首をねじりあげる。それを振り払おうと、あるいはさらに押さえ込もうと、何度かの攻防が続いたが、最終的に有利をとったのは先攻者だった。
シェリーの左手首を掴んで背後に回ったケンニヒが、頭を前に押さえつける。シェリーは膝に力を込めて男の体重に屈しまいとするが、逆にそれが彼女の動きを縛ることになった。腰を折り、床に水平になった背中にのしかかられ、体勢を保つためにシェリーは右手で目の前のカーテンを掴んだ。
「やめろ! 何を…!」
「声を出すな。気づかれる」
非難を、ことさら低く押さえられたケンニヒの声が遮った。
「――――」
シェリーは唇を引き結んで、言葉を飲み込んだ。
留め具を失って完全にはだけたシャツの間から、ケンニヒの右手がシェリーの胸元に入り込む。一連のやりとりのせいで、シェリーの身体は上気していた。血色を帯び、汗ばんだ肌を、やはり熱くなったケンニヒの手が薄いスリップ越しにまさぐる。なまじその先をよく知るせいで、シェリーの肉体は思いとは裏腹の反応をした。じわりと身体の芯が熱くなる。
感応するように、ケンニヒの下半身が隆起するのを背後に感じた。
「〜〜〜〜っ!」
身震いし、振り落とそうとするが、相手も心得たもので、その巨体が揺らぐ気配はない。
シェリーの抵抗を察して、早々にケンニヒは彼女の下半身に手をかけた。片手でやすやすとスラックスの釦を外す。それが手慣れて見えるのは、彼女の服が、普段から彼が身につけている物と変わらないためだ。せいぜい下着の形が違う程度で、長いスカートをたくしあげる必要もなければ、繊細で複雑な作りの補正具を脱がせる必要もない。その点を挙げて、自分をやり易い相手だとケンニヒが評したことがあるのを思い出して、シェリーは忌々しく思った。
コルセットでも身につけていてやればよかったか、いやむしろ、今必要なのは処女帯かと、らしからぬことを考える。どちらも彼女の人生には縁遠いものだった。
そして実際には、彼女の着衣は易々と相手の侵入を許した。スラックスの前開きを通り、下着を避けて、ケンニヒの手がシェリーの奥まった場所に触れる。ビクリと彼女は身を震わせた。太い指が入り込んでくる。
「……っ、……っ……!」
まずは一本、探るように差し入れられたかと思うと、すぐにもう一本が入口を押し広げた。ぬちりとくぐもった水音を立てて、男の指がシェリーの身体を出入りする。中の敏感な部分を撫でられ、シェリーの突っ張った膝から力が抜けた。その様子を見ながら、ケンニヒは慎重にシェリーの左腕を解放した。抵抗を考えつくよりも先に、シェリーは両手でカーテンを掴み、身体を支えようとする。日よけのための薄い布地がきしんだ。
自由になったケンニヒの右手が、シェリーの背後で動く。それが何を意味しているのか少女は知っていたが、どんどんと熱くなっていく下半身の均衡を保つのに必死な今の状況ではどうしようもない。
やがて準備が終わると、ケンニヒはスラックスの中から右手を引いた。
「ぁ……」
思わず声をあげるシェリーに構わず、両手でスラックスを掴むと、下着もろともずり下ろす。汗ばみ、潤んだ少女の下半身が少し露わになると、これで十分だと、服と肌の隙間から自身をねじ入れた。熱く怒張したそれが触れ、シェリーは身体を強張らせる。二、三度入り口を確かめ、先を濡らすと、ケンニヒは自身をシェリーの中へと突き入れた。
「…………っ」
勝手知ったると言わんばかりに、無遠慮に入り込んでくるそれに、まださほど潤っていない中を無理矢理ねじ進まれる感覚が、シェリーの全身を粟立たせた。それでいて中は侵入者を拒むどころか迎え入れるように、奥に向かってひくつく。姿勢を保つにも、快楽を享受するにも、それぞれがお互いを邪魔して、息もできない。男のそれが一番奥に達して、シェリーはようやく息を吐き出す。
しかしケンニヒは一呼吸の暇すら与える気はないようで、それまでシェリーの腰を掴んでいた両手を彼女の胸や腹部に回すと、ぐいとその上体を起こした。
「―――!」
繋がったままの下半身が強く揺さぶられる。今まですがっていたカーテンからもぎはなされ、シェリーは手さぐりでケンニヒの服を掴んだ。完全にお互いの上体が起きると、容赦なく、痛いほど奥を突き上げられる。苦しさに、吸いかけた息を思い出して、シェリーは何とか胸を膨らませた。声にならない抗議のために服を引っ張るが、素知らぬ顔でケンニヒは文句をつける。
「もう少しどうにかならないのか」
「お前が、背が、高すぎるんだ……っ」
絶え絶えに、彼女は答えた。
シェリーと彼とでは、優に頭一つ分以上の身長差がある。シェリーはつま先で体を持ち上げたが、それでも足りず、片足が宙に浮く。当然それ以上に動く余地はなかった。それが彼にとっては不満なのだろう。しかしシェリーにしてみればそれどころではない。
呼吸の度に上下する胸に合わせて、貫かれた下半身がうずくので、再び息を殺す。ほとんど一点で身体を支えるこの状態で、さらに足の力を失ってしまえば、どうなるだろうか。ケンニヒの両手が彼女の胸や下腹部を押さえているが、むしろその熱にあてられて、余計に身体が火照った。ふとももを幾筋も汗が伝い、脱ぎかけの衣服にシミを作る。
このままではらちが明かないことを知ると、ケンニヒは身をかがめた。シェリーの頭を押さえつけて上体を曲げさせ、両足が床についたことを確認すると、自身を一気に引き抜く。
「…………!」
急な解放に、シェリーはびくりと背筋を反らせた。透明な雫が一筋、名残を惜しむように後を追い、きゅう、と中が締まる。
すぐに、ケンニヒは身動きのとれないシェリーを抱き抱えた。たくましい腕で彼女を、つい今まで彼女が向かっていた黒檀の執務机に、ほとんど投げるに押し倒す。中途半端に脚にまとわりつく衣服に邪魔されて、シェリーは身体を折ったまま、彼の為すがまま仰向けになった。無理な体勢から多少楽にはなったが、彼の身体があるせいで脚を下ろすことも出来ない。
彼女が文句を言う暇もなく、ケンニヒはシェリーの膝の裏を掴んで、彼女の身体に押しつけた。雫がこぼれ落ちるほどに濡れた少女の下半身が、天井に向けてあらわになる。薄く開いたそこに、ケンニヒは再び自身を埋めた。ほとんど抵抗なく、ぬるぬると埋まっていく。
「――――」
先ほどより容易に相手を受け入れる自身に腹立ちと、同時に安堵を感じて、シェリーは顔をしかめた。決してこれは自分が望んだ状況ではないとケンニヒを睨みつける。しかしその態度もそう長くは続かなかった。
奥にたどり着いても、今度はとどまることなく、ケンニヒは自身を引き抜くと、再び一気に突き入れた。身体をぶつけるように、激しく挿入を繰り返す。いたわりや技巧など微塵も感じさせない、直情的で、荒々しい動きは、逆に彼女の精神を快楽の方へと追いやった。
「ぁ、っ……、……ぁ……っ!」
卑猥な音を立てて、何度も出入りするそれに、こすり上げられ、かき乱され、突き上げられ、シェリーは背中を反らした。身体が自由になる分、下半身から全身を侵す快感に集中してしまう。机に爪をたてて耐える内に、思った以上に早く限界が近づいてくる。それに気づくと、シェリーは隠すように、腕で顔を覆った。しわの寄ったシャツの隙間から、ケンニヒと目が合う。おそらく、彼も興奮はしているだろう。しかし未だに冷めたままの目がシェリー見下ろしていた。
とたんに自分の醜態を自覚して、かぁっとシェリーの身体が熱くなる。合わせたように、ケンニヒがその中を一気に貫いた。頭が真っ白になる。
「――――…っ!!」
喉を反らして、シェリーは絶頂した。びくびくと内壁が痙攣し、相手をくわえ込んで絶頂を誘おうとする。しかしその最中でさえケンニヒは構わず、半ば無理矢理動き続けた。
「ケン、ニヒっ」
快感に打ち震える体内をなおも激しく刺激されて、たまらずシェリーはその名を呼ぶ。彼に向かって手を伸ばそうにも力が入らず、すがるように、せめて自分の膝を掴んだままの相手の袖を握りしめた。
「ケンニヒ、――ケンニヒっ」
三度目に、彼は眉根を寄せた。こめかみにはうっすらと汗が浮かんでいる。彼としても、自分の動きに加えて、不規則に、しかし絶え間なく締め付けられて、そう平静ではいられない。応えるように上半身をかがめた。
降りてきたその頭を、シェリーが両手でかき抱く。荒い吐息と共に唇を重ねて、お互いの長く尖った牙をやり過ごしながら、口内に舌を差し入れた。彼の、自分よりも厚く大きなそれを吸う。
彼女のやりたいようにやらせると、ケンニヒは自分の動きに専念し直した。もう脚を押さえつける必要もなく、腰を抱え、より深く自身を打ち付ける。
「んっ――ふっ――ん、んっ」
開いた唇の隙間から漏れる声に急き立てられ、ケンニヒは動きを早めた。シェリーがその首に腕を回し、抱きしめる。その間にも、絶頂が波のように少女を襲い、その度に内部はきつく彼のそれを握りしめた。彼女の何度目かの絶頂の中――一番深い場所で、彼は果てた。
熱いどろどろとした塊がシェリーの中に吐き出される。シェリーはケンニヒの肩に顔をうずめ、背中を丸めてそれを受けた。最後の一滴までしぼり取ろうとするかのように、体内は収縮を繰り返す。それに反応して男のそれが脈打ったようで、言いようのない悦びがシェリーの身体と精神を満たした。
つらぬいたのか、つらぬかれたのか――呑み込んだのか、呑み込まれたのか――判別もつかず、しばらくの間、2人は抱き合ったままお互いの絶頂を味わっていた。
全身の筋肉が疲労し、痺れてきた頃にようやく波は去り、シェリーはケンニヒの首に回していた腕を下ろす。白いシャツは2人分の汗でぐっしょりと湿っていた。同時にケンニヒも動く。
「―――…っ」
彼の萎えたそれが、ゆっくりと引き抜かれる。その感触を息をつめてやり過ごすと、シェリーは上げていた脚を横に投げ出した。机の上で体を丸める。濡れた服が不快に肌にまとまりついた。未だに体内は熱を帯びていて、頬に当たる冷たさに自分を律しようとする。
そのまま動かないシェリーに、いち早く己を取り戻したケンニヒがかけた言葉は冷徹だった。
「いつまでそうしているつもりだ」
「…誰のせいだと思っている」
力なくシェリーは吐き捨てる。似たようなセリフを予想していたが、実際に聞いてみるとやはり苛立った。
「お前のせいで、台無しだ」
と、寝転がったまま、机の上に散乱した書類の中から一つを取る。ケンニヒが来る前からかかりきりになっていた書き物だが、今はしわがより、文字がにじんでいて使い物になりそうになかった。その中身もまた熱中が覚めれば、ひどく粗末な出来に見える。外交文書だという話だが、それ故に美辞麗句と社交辞令にあふれていて、一文進めるのもままならない。
シェリーが眉をしかめて眺めるそれを奪い取ると、ケンニヒは一瞥して、
「下手な字だ」
と握りつぶした。どうせ破棄するつもりの文書だったし下手の自覚もある。しかし、そのやり方にシェリーは腹が立った。上半身を跳ね起こし、眉を吊り上げて相手に迫る。
「下手でも何でも、それが私の仕事だ」
しかしケンニヒは取り合わなかった。
「こんなものがお前の仕事か」
と静かに彼女の言葉を、意味を変えて返すと、横から陽の光を浴びて、燃える炎のように光る目を至近距離からのぞき込み、厳しく言い放つ。
「できないことは他の誰かに任せておけ。伯父上はなんと言った。お前に一人でこなせと言ったか」
シェリーの父は、彼女に任務の権限の一部を預けるとき、従来以上に大量の補佐をつけた。彼らに頼ることなく父の命を成し遂げてみせるのが自分の役目だとシェリーは思っている。しかし目の前で、彼はそれを否定した。
「俺達が何の為にいると思っている。誰でもいい。近衛の連中にも家臣の中にも、お前の不得意が得意な奴はいる」
「…………」
思ってもいなかった弱みを掴まれて、素直にそれを受け入れられるような生き方を彼女はしていない。シェリーは少し身を引いたが、それでもケンニヒをにらみつけた。彼は相変わらず冷ややかな目でそれを眺めていたが、やがて折れる様子がないと察すると、シェリーの肩に手をかけた。
「待てっ」
抗議の声も聞かず、机の上にうつぶせにさせる。机の辺に腰掛けていた彼女の身体は、ちょうど下肢が机の外に投げ出される形になった。慌てて、シェリーは床に足をつき、上体に力を込める。しかしケンニヒは起き上がろうとする頭を押さえつけると、いつの間にか再び硬く張り詰めていたそれを、シェリーの中にうずめた。
「…ふっ……んっ――――馬鹿っ!」
さっき離れたばかりのそれが自分を埋め直していく感覚に、思わずシェリーは喉を鳴らし、最後にわめいた。まだ中の感覚は鋭敏なままで、奥の方で温かい白濁がどろりとゆれる。否応もなく、さっき共有し合った快感を思い出す。
しかし震える背中にケンニヒが投げたのは、思いやりのかけらもない一言だった。
「腰を上げろ。やりにくい」
「だから……お前が、大きすぎるんだっ」
地団駄を踏む代わりに、シェリーは拳で机を叩いた。頑丈な造りの机はびくともしない。
直立の時ほど無茶な体勢ではないが、お互いの位置を合わせようとすると、やはりシェリーの方がつま先を頼りに下半身を持ち上げる形になる。戦闘のために鍛えられた筋肉はこれとは用途が全く別で、耐えられず、徐々にシェリーの脚から力が抜けていく。何回かシェリーはそれを自力で持ち直させたが、結局ケンニヒの方が見切りをつけ、彼女の腰を自分の両手でつかんだ。そうして前後に動き出す。
「ん、ん――っ」
体勢は幾らか安定したが、相手が好きに動くその分シェリーの身体は翻弄された。何かに取りすがろうにも、執務机の表面はつやつやと磨かれ、掴む所もない。顔さえ映るようで、シェリーは目を閉じた。しかしがむしゃらに腕を動かしたその拍子に、何かが当たって倒れる。ハッと目を開けると、それは小さなベルだった。シェリーが手を伸ばす暇もないまま、それは机上を半回転すると、縁から転げ落ちた。金属同士がぶつかり合う、派手な音が響く。卓上に置かれたベルを鳴らす、その意味は――
2人とも動きを止め、息を潜めて成り行きを見ていた。
ほどなく、一人の侍女見習いが、全く不用意に執務室の扉を開いた。どこか晴れやかな笑顔で、中に声をかける。
「あの、ご用ですか? お茶にし……」
そしてそれを途中で止めた。初め、何が起こっているのか分からなかったのだろう。ルディは驚いた様子で、身をすくませた。遠目から見れば、ただケンニヒがシェリーを机に組み敷いただけに見える。大柄な男が少女をねじ伏せる構図に、ルディは不安げに首をかしげ、片足を踏み出した。気遣うように主人に手を伸ばし――部屋に立ちこめる匂いや主人の表情、布地の隙間から垣間見える肌に、ようやく状況を理解して――凍り付いた。
「お嬢様っ……あのっ、ケンニヒ、様……?」
その手を胸元にやって、顔を赤くする。シェリーとケンニヒの顔に交互に目をやって説明を待つが、シェリーにその余裕はなく、ケンニヒはただ何を考えているか分からない無表情で少年を見るだけだった。困惑した少年の目線は自然と、露出したシェリーの下半身へと落ちる。
見計らったように、ケンニヒが動き出した。ケンニヒの隆起したそれが動くのに合わせて、粘液が生々しい音を立てる。ぬらぬらと光る赤黒いケンニヒのそれが、シェリーの中に深く埋もれていった。その様をルディは食い入るように見つめていたが、自分が唾を飲み込む音で我に返る。慌てて視線を自身の手元へと落とした。
側で見ていろと命じられたこともある。逃げるのを連れ戻されたこともある。彼は足を震わせながらもその場から去ろうとはせず、誰かから何かを言いつけられるのを待った。目を閉じて耳を塞ぎ、その場にうずくまりたかったがそれもできず、片手でドアの取っ手にすがり、もう片方の手で短いスカートの裾を握りしめる。それは羞恥に耐えるためでも、興奮した中身を隠すためでもあった。
いつまでも慣れずにうぶなことだと、普段のシェリーなら少年をからかうこともできただろうが。
「――っ――っ」
突き上げる動きが激しさを増し、喉の奥からこみ上げる衝動を抑えるためにシェリーは顔を伏せた。腕を身体の下に折り込んで、脳裏を貫く快感が今にも爆発しようとするに耐えようとする。その努力が空しいものであっても、せめて為す術もなく快楽に流れる様など見せないですむようにと。
しかし、今この場を支配する男はそんな矜恃を許さなかった。シェリーの短い髪に指を絡め、わしづかみにする。
顎を引く、わずかばかりの抵抗も空しく、シェリーは無理矢理、顔を上げさせられた。大きく見開かれたルディの目と視線がぶつかる。
「あっ」
漏れた息が、どちらのものだったのか分からないまま、その瞬間、シェリーの下半身は激しく打ち付けられた。
「あ、あ、あ――」
快感が下半身から背筋を駆け上る。身体の奥から、止めようのない声がこみ上げる。
「あ―――!」
奥を突き上げられ、ルディが見つめる前で、全身を震わせて、シェリーは絶頂した。
内壁が繰り返しケンニヒを締め付けるが、まだ果てる様子のないそれに逆に快感を返されるばかりだった。歪む視界の向こうで、ルディは耳まで赤くし、今にも泣きそうな目をしながら、口をわななかせていた。それはそのまま自分を映す鏡のようで、シェリーは頭を振って払いたかったが、ケンニヒの手がそれをさせない。
さらにケンニヒはまだ絶頂の波も引かない内に、びくつくシェリーの中をかき回した。浅く深く、緩急のついたそれに理性がかき消されていく。
「あっ、ひぁっ」
抑えようとする気力もうまく働かず、シェリーは嬌声を上げ続けた。
「あ――んっ、あ、あっ――」
何度も、何度でも、ケンニヒは自身で彼女に赤裸々な声をあげさせる。
初めて聞く声に、ルディは息をのんだ。いつになく高く、うわずるその声は泣いているようにも聞こえたが、それよりもずっと甘美な響きでルディの耳をくすぐる。おまけにその顔はどうだ、唇はあやふやな形に開かれ、目には涙をたたえている。音も、匂いも、映像も、強烈に彼の中の男を刺激した。とうとうルディは目をそらしてうつむく。立っていられないほど、スカートの中が熱く張り詰めていた。欲望が強く彼の心を支配する。この思いが罪だと知っていて、固く目を閉じた。
少年の脚が傍目にも分かるほど震えだした頃、ようやくケンニヒは彼に命じた。
「行け」
「っ! ――――はい……っ」
ルディは弾かれたように顔を上げ、一度だけ、シェリーを見つめ――苦しげに顔をゆがめると、一礼もおざなりに、引き下がってドアを閉めた。
その背中を見届けて、ようやくケンニヒはシェリーの頭を放す。シェリーは拳を握って、額を机にこすりつけた。息を詰めて声を押さえ込むと、背中越しにケンニヒを責める。
「っおまえのせいで、台無しだ……っ」
「おまえの稚児趣味など知ったことか」
にべもなくケンニヒは言い捨てたが、シェリーは言いつのった。
「それだけの……話じゃない」
派手に机の上に散乱した、かつての書類の山を見やる。それらと共に今まで築いたもろもろを突き崩されたような気がして、苦々しい思いがシェリーの胸中を浸食した。この程度で消えてしまうような自分のプライドや理性など空しいだけだ。
快楽のそれとはまた違う、どこか憂いを帯びたシェリーの横顔を見て、その一番奥で、ケンニヒは動きを止めた。
「んっ……」
勢いが無くなったからと言って、消え失せたわけではない。むしろ、ひくつく自分の内側で、熱くたぎるそれの形や感触を克明に味わうことになり、身体を強張らせた。上体を倒し、少女に覆い被さると、ケンニヒはその耳元に低い声を響かせた。
「うぬぼれるな」
一瞬シェリーは反論を考えたが、結局はその通りなのだろうと、押し黙る。
「まだ台無しになるほどの物を成せていない。俺もお前も」
しかし続く言葉に、彼女は目を見張った。
「焦る必要はない」
耳元で囁かれた声色の意味を、シェリーは探った。優しさなどというものが、この男に今この状況で期待できるのだろうか。さざ波のような快楽に晒され、判断もままならなかった。答えないシェリーの耳の後ろを、ケンニヒの唇がなぞる。
「………っ」
温かくぬめった舌がそれに続くと、ぞくぞくと脳天から背中に波が走る。それが下半身から再び反射して、シェリーは肩を震わせた。彼をくわえこんだままの下半身が熱く、ひくひくとうずく。しかしケンニヒは身体を密着させたまま、動く気配はなかった。さっきまであれほど我が物顔で彼女の身体を蹂躙していたというのに。
「ふっ――んっ――んっ……」
喉から嗚咽に似た音が漏れる。
もどかしさにせき立てられ、せめてケンニヒの舌から敏感な部分を隠そうと、シェリーは上半身をよじって横を向いた。しかし下半身を縫い止められている時点で、どう身じろぎしようと彼の可動範囲から抜けられるはずもない。うなじに、耳に、こめかみに、熱い息を吹きかけられ、歯を立てられ、その間にもシェリーの体内は意志に反して脈打ち、彼が再び自分をかき乱すのを待ち焦がれた。
「ケンニヒ……っ」
今度はいくら呼んでも、相手は答えなかった。ひたすら、静かに愛撫を繰り返す。シェリーは手を胸の前で握りしめ、背中を丸めるが、もう彼の唇から逃れることさえあまり意味はない。内側から絶え間なく送り出される熱のせいで、背中に触れる彼の手さえ、こんなにも熱いのだから。
「や……だ……いやだっ……ケンニヒ……いや………」
拒絶ではなく、懇願のつもりで言葉を絞り出す。それを聞いて、彼が顔をあげた。横目でそれを追うと、わずかに目が合う。その切れ長の双眸は、彼女が思うような、冷たいものではなかった。いつも固く閉じられた口元は物言いたげに緩んでいる。
年下の従妹を、諭すときにする顔だ。朦朧と、シェリーは彼の意図を理解する。
「…………っ……っ」
目を閉じて、彼女は数度うなずいた。拍子に、まぶたの隙間から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。ケンニヒの指が、目尻の滴をぬぐった。それが合図のように、彼はゆっくりと腰を引く。
緩やかに感じたのはその時だけで、次の瞬間には強く打ち付けられた。
「あ――…っ」
その勢いに、シェリーは息を詰まらせる。望んだ通りの快感に、全身が悦びの声をあげた。
しかしケンニヒはシェリーの奥にたどり着くと、再びそこで動きを止める。こすり上げられるのを期待していた体内はひくついて、ねだるように彼を締め付けた。
何が彼の気に入らないのかとシェリーが理由を探す内に、彼はまたそれを引き抜き、もう一度、勢いをつけて挿入した。激しく奥を打ち、それでいて、やはりすぐには動かない。
その度に頂点の一歩手前で引きとどめられ、シェリーは切なげに喉を鳴らした。相手は焦らすのを楽しむようでもあったし、様子を見るようでもあった。自分の言葉が足りないのかと、理性の霞んだ頭でシェリーは考えたが、その内にまた彼は唇を彼女の耳元に寄せる。走る快感に晒されながら、その荒く熱い呼吸に、シェリーは彼の限界も近いことを知った。
「ケンニヒ――」
急に、固く冷たい机が心許なくなって、口づけまではかなわなくても、せめて相手の顔か首にでも手をかけようとシェリーは背中に向けて腕をねじる。ケンニヒはそれを取ると、お互いの指を絡ませた。もう一つの腕と共に、彼女の身体の前に差し入れ、抱きかかえる。シェリーはつま先に力を入れて腰を持ち上げ、こすりつけるようにしてそれに応えた。
ケンニヒが動く。
「んっ」
びくりと、ケンニヒの下でシェリーの背中がすくんだ。押す力も引く力も勢いを増して、あっという間にシェリーを高みへと押しやる。
「――あっ! あっ! は――っ、あっ!」
奥を突かれ、絶頂する度に、シェリーはそれを教えるように、声を出した。思考が空白で埋まり、快楽をむさぼる以外何も考えられなくなる中でも、離すまいと、ケンニヒの手を握りしめる。ケンニヒもシェリーを抱く腕に力を込めた。わずかの間離れるのでさえ惜しむように、身体を重ね合わせたまま、最も深い部分をかき回す。それは少女のぬらつく内壁に敏感な先端をなめ回されるようで、同時に、何度も、痛いほどに締め付けられ――その中で、彼は自身を解放した。
「あっ、あ―――っ!!」
自分の中にほとばしる熱に、シェリーは全身を震わせる。内側が、精を放つそれをさらにきつくくわえ込む。びくん、とそれは彼女の中で跳ねた。その間もケンニヒは、小刻みに、出来る限り奥を目指すように、自身をシェリーに押しつけた。
「――――」
彼の食いしばった歯の間から息が漏れる。
その荒い吐息も、重くのしかかる肉体も、濃厚な奔流も、シェリーはすべて受け止めた。
鼓動も呼吸も体温も溶けあって一つになる。
しばらくの間、2人はお互いの熱だけを頼りに余韻の波間を漂った。
やがて、どちらからともなく漏れた息に自分を取り戻すと、一つずつ、結んでいた手や腕を放す。
最後にケンニヒの身体が離れると、完全に力を失ったシェリーはずるずるとその場に崩れ落ちた。ケンニヒの腕がそれを支えたが、シェリーは再び立ち上がる気力もなく、結局2人で床の上に座り込む。
浅く息をつきながら、シェリーは彼の厚い胸板に身体を預けた。汗で張り付いた服の上から相手の肌をなでる。力強く鼓動する心臓の辺りに手をやり、そこで拳を作る。とたんに、彼女はかっと目を見開いた。顔を上げてケンニヒをにらむ。
「答えろ、誰の入れ知恵だ」
どん、とそこを叩く。肺にまで響いた衝撃をおくびにも出さず、ケンニヒは答えた。
「さあな」
「とぼけるな。お前がこんなに気が利くはずがない」
その牙で噛みつかんばかりに、シェリーは相手に顔を近付けた。これ以上しらばくれるようなら今すぐ、彼の胸に穴を開けて心臓をえぐり出してやると、そういうつもりでいる。さすがにそれを甘んじて受けるつもりはなく、ケンニヒはその手首を掴むと、怒気に盛る彼女の瞳をのぞき込んだ。
「誰でもいい、思いつく限り挙げてみろ。大抵当たる」
その言葉に一瞬鼻白んで、それからすぐシェリーはケンニヒの手を振り払った。それを再び彼の胸に当てることはせず、まるで痛むかのように眺める。頭の中に、いくつも名前が浮かんでは消える。近衛や侍女、側近や家臣、親戚ら、10人を過ぎた辺りで見当をつけることをあきらめて、彼女はケンニヒをにらんで別の不満を挙げた。
「何で、皆お前に言うんだ」
「それは俺のセリフだ」
即座に返される。
眉尻を寄せて顔を横に向けると、口の中だけで、シェリーは不平を転がした。それが何故か、ケンニヒには猫が鳴くように聞こえる。ぶつくさと文句を言うその横顔を、ケンニヒは眺めていた。
ややあってシェリーの目は一度固く閉じられ、再び開いたときには分別をつけたような光を宿していた。
「支度が終わったら、近衛達を呼べ」
そのくせ、不遜に宣言する。
「私に使われたいと言ったんだ。せいぜい働かせてやる」
「そうしろ」
その頭を自分の胸にあて、ケンニヒは大きな手で撫でた。シェリーは一瞬抵抗をみせたが、素直に、今度こそ身を預ける。全く動けないわけではないが、やはり今すぐ動く気になれないほどには疲労している。ケンニヒはそんな彼女の腰に手をやると自分の方に引き寄せた。流れるような動作で重心をずらして、上半身を床に押し倒す。
「――待て!」
完全に意表を突かれて、シェリーはケンニヒの服の肩の辺りを握った。迫ってくる彼の身体を押し返そうとするが、上と下とでは話にならない。両手で彼女の頬を包み、真っ直ぐにシェリーを見下ろして、ケンニヒは言った。
「俺の仕事は終わった。少しは楽しませろ」
仕事のつもりだったのかとか、これまでも十分楽しんだじゃないかとか、相手の理不尽さにシェリーの思考が止まる。どの苦情から言うべきか選択できない内に唇をふさがれ、シェリーは声にならない声をあげた。
廊下にへたり込む侍女見習いが執務室に呼び戻されるまで、まだしばらくの時間を要した。