オブリード辺境伯の治世、『ホーゼンウルズに将軍ゲアトルドあり』、と人々に囃された男がいる。
彼はオブリード辺境伯よりも一回り年嵩で、前のフィドト辺境伯の時代からエデルカイト家に仕えていた。生まれた身分こそ下級の騎士であったが、生来頑強な身体に鍛練を積み、研磨を重ねることで数々の武勲をあげた。また忠義にあふれた生き様と勇猛果敢な戦いぶりが人々の彼への信を厚いものとし、ついにはオブリード辺境伯より爵位の世襲を許された。一兵士より身を立てたエデルカイト家の起こりにもなぞらえられる、異例の抜擢である。
しかし希代の名将軍とうたわれた彼も後継者には恵まれず、跡取りたる長男は暗愚であった。彼は、忠義を理解せず己の自尊心を最上とする息子の愚かさを知っていたが、慣習に従い、老いて前線を退く際に、長男に跡目を継がせた。彼の息子はホーゼンウルズ中興の立役者と称された父の威光を嵩にきて、父に与えられた恩賞を功績に対して不服に思い、また自身が父と同じようには取り立てられないために、さらにそれを募らせた。そしてオブリード辺境伯がいよいよ本格的に一人娘のシェリーに辺境伯領を継がせる算段であると知ると、謀反を計画した。折しもオブリード辺境伯が病に倒れ、まだ若いシェリーがその代理に就くと、彼はこれをまたとない好機と考えた。他の逆臣と組んだ彼は兵を集め、主都ベルスートに攻め入ろうとしたのである。
決行の直前、内通者の告白により陰謀は明るみに出て、首謀者を始め、関与した者達は軒並み捕らえられた。この様な大事に対しては、一族郎党が枝葉に至るまで処刑されるのが慣例である。ゲアトルド将軍は息子の謀反の報を受けるや否や単身早馬をとばし、ベルスート城へと駆け込んだ。
愚かな息子の罪は全て自分の責である。今さら息子の命を乞うほど未練があるわけではない。むしろ息子共々自分を断頭台に乗せ、この罪の詫びとさせてほしい。しかしまだ幼い孫らの命だけは容赦してほしいと、オブリード辺境伯の病床にまで出向くとゲアトルドは恩赦を請うた。
彼が第一線を退き、近々齢60に届こうという時の出来事である。老いた獅子が白髪の頭を地にこすりつける様は見る者の哀れを誘い、策謀の対象となった領主オブリードでさえ、自らの代理たる娘にことさらの配慮を言いつけた。
「では父上」
とシェリーは父の隣に立ち、同じくゲアトルドの必死の懇願を目にしながら言った。
「もっとも罪深き者が彼の息子であり、この罪人の過ちも彼を源とすると言うならば、その元を断つことにします。根元が枯れるのだから、やがて葉も枯れるでしょう。枝は地に落ちればまた樹となる可能性がありますゆえこれも断つ必要がありますが、葉は朽ちていくだけ。許すことといたしましょう」
オブリードはこれを良しとし、ゲアトルド将軍の宮刑の報せは、瞬く間にホーゼンウルズを飛び交った。
* * *
ベルスート城の聖堂の中は、冷たい空気と静謐に満たされていた。
高い壁の上部に並んだ細長く大きな窓からは低い陽の光が白々と差し込んでいるが、冬の朝の寒さをせいぜい和らげる程度の力しかない。壁に沿う様に立ち並ぶ人々は曇る息を吐いていた。皆、正装の上に分厚い外套を着込んでいる。一様に暗い色調で、普段好まれる羽飾りや豪奢な宝石は外されていた。白を基調とした聖堂の底に、人と人の境もあやふやなままぼやけた黒が澱んでいる。
今日、主に招かれたのは、エデルカイト家の傍系であるソゾン伯を始め、ホーゼンウルズ辺境伯に連なる大小様々な有力者達である。その他に、ゲアトルド将軍の名声はイブリースの王の耳にも聞こえる程であったため、中央からも特使が派遣されていた。公式な場であるから、子弟や妻子を伴った者もいる。50人程が聖堂の中を満たしていた。
連れだった者、あるいは隣り合った者同士が小声を交わす。宮刑がゲアトルド将軍程の功ある忠臣に、しかもこれほど多くの立ち会いを招き入れて行われるのは前例のないことである。大概の者は、ゲアトルドの不運を嘆いた。彼自身が陰謀に関わることはおろか、耳にすらしたことがないだろうと誰もが確信していた。もし、ちらとでもそんな噂を聞いていたならば、彼は息子を問い正し、事の次第によってはその場で斬り捨てて見せただろう、と。また義をよく知る彼が己の不道理を知りながら、あどけない孫の救命を求めたのもまた、大変情け深いことである。
しかし寄せた眉の下のまなこの奥で、あるいは扇に覆われ隠された口元で、えも言われぬ悦びと期待がくすぶっている。ああ、あの男もとうとう過分の報いを受ける時が来たのだとか、豪胆で知られた将軍が果たして刑に際してどの様な声をあげるのかだとか。
刻限を告げる鐘が鳴ると、人々は口を閉ざした。間を置かず、聖堂の大扉が軋みながら開く。冷えた外気が、わずかばかり温まっていた空気を容赦なく侵す。身を震わせた人々が見つめるその向こうに、シェリーが辺境伯代理として姿を現した。黒衣に身を包み、左手には辺境伯の地位を示す錫杖を携えている。その顔に表情はない。わずかに目を伏せ、複数の従者を連れて朝靄と共に彼女が聖堂に足を踏み入れると、皆頭を垂れた。
聖堂の中央を奥に向かって、彼女は誰とも目線を合わせることなく前を向いたまま進んだ。ただ一度だけ、群衆の中に少しばかり毛色の違う二人を見つけると、軽く会釈をする。中央からの特使である。国王の遣いとはつまりこの場において国王の代理ということであると考えると、彼女が臣下として示した礼は最低限であった。
「顔を上げよ」
再奥の壇上にたどり着くと、振り返って彼女は声をあげた。若干17才ではあったが堂々とした様子で、不遜に人々を見下ろしている。自らが口をきくまでもないと、傍らの従者に手をかざす。それを受けて、颯爽と一人の男が歩み出た。年は40くらいだろうか。軽薄そうな笑みを浮かべ、シェリーに、次に人々に、深々と礼をする。
「こちらにおわす皆様方におかれましてはご機嫌うるわしゅう――」
伸ばした顎髭を今風にカールさせ洒落者を気取った風だったが、年に似合わぬそれはどこか滑稽で、長い手足が見せる大仰な動作は道化のようだった。
「ご足労いただきまして大変に恐縮でございます。皆様がこの日この場に、ホーゼンウルズ辺境伯の名の元執り行われる此度の刑が天地神明に誓って公明正大なものであると、その証人となるためにお集まり頂きましたこと、心より御礼申し上げます。
さてこの度、刑執行の栄誉を偉大なる辺境伯様より賜りますのは私ユーグでございます。まずはこの刑は私めの責任の元執り行わせて頂くことをお並びの皆様方よりお許し頂きたい」
すぐに、ある者が応、と声をあげ、他の者が了承を示す拍手を続け、彼は深々と頭を下げた。儀礼的なやりとりである。しかしユーグの次の口上を聞くと、聖堂内はざわめいた。
「それでは今ひとたび、皆様にお許しを乞いとうございます。私の監督の元、本日刑を執行いたしますのが、私めの助手となりますことを――」
公明正大と言ったばかりの口で、実際の刑に助手を使うとは、いったいどのような采配か。まさか切れぬ刃でも用意してあるのではないかと、人々はいぶかしむ。それを予見していたのだろう、ユーグは満面の笑みを浮かべて言葉を重ねた。
「いやいや皆様、どうかご安心を。助手とは申しましても、経験を積み、腕は確かでございます。けして皆様のお目を汚すようなことはないと、私めの首にかけて、お約束いたしましょう」
下賎な首切り役人の命など参列者の誰一人として関心はなかったが、少なくとも彼の自信の程はうかがえた。何より、父に代わってこの場を取り仕切るシェリーはすでに決めてあったことなのだろう、なんの異も唱えなかった。茶番だとでも言いたげな冷めた目で、彼の方を見もしない。
動揺が静まると、助手と紹介された人物は一歩前に出た。氷のような冷徹な双眸が見える以外は白いヴェールを頭から爪先まで被り、口元さえ覆い隠されているが、体型から女と知れる。その場で膝を折る、長いスカートを邪魔にしないための一礼からも明らかだった。彼女にはさらに何人かの人影が連なっていたが、皆同様に顔を隠し、濁った目だけが覗いている。ものも言わぬ、得体の知れぬ異様な一団である。
再び人々から同意を取り付けると、ユーグは掛け声をあげた。すると聖堂の裏口が開き、おそらくこちらが本来の助手であろう、数人の男達が台車を運んできた。中央に立っていたシェリーや従者達はそれに場所を譲る形で壁際へと退く。車輪のついた台は壇上で人々に対して横向きに止まると、その場に固定された。その上には他でもない、ゲアトルド将軍が仰向けに身を横たえている。疲労の色濃く、青ざめてはいたが、唇を引き結び、決然とした面持ちであった。腕と足を台の裏に縛られた、屈辱にまみれた姿であることに変わりはないが、それでも主君は彼に一縷の尊厳を許したのだろう、上半身には軍服を着ていた。一方下半身は露出され、下腹部だけが白い布に覆われている。そこから伸びる両足には皺が寄り、幾つかのしみと、まばらに生えた毛の白さが目につく。それでいていまだに筋肉で節くれだったその脚を胸中で、老いて尚逞しいと評する人もいれば、往年からは見る影もないと笑う人もいた。
ゲアトルドの足元に丸椅子が置かれると、助手の女はやはり人々に対して横向きにそこに座り、彼の下腹部と向き合った。
彼女に付き添う者達がその隣に台を置き、大小様々の器具を並べた。それらは再び人々を驚かせた。宮刑においては、性器を大鉈で一刀の元に切り落とすか、絹の糸で縛り、一気にちぎりとるのがこれまでの通例である。しかし並べてあるのは手に収まる程度の小ぶりの器具ばかりだった。
「それでは、始めたまえ」
用意が整ったと見ると、ユーグがもっともらしく開始の合図を告げた。一瞬だけその顔は忌々しげに曇ったが、もはや人々の興味は彼にはない。
女の僕が、ゲアトルドの下腹部を覆う布を取り払う。老人の萎縮した性器が露になった。あらかじめ全て剃毛されており、余すところなく寒気にさらされる。羞恥だろう、ゲアトルドは眉をひそめ、顔を赤くした。
一度濡れた布で全体を拭くと、女は小さな刃を手に取った。観衆が息を呑む。
女は躊躇うことなく陰茎の根本に刃を入れた。赤い血が一瞬、切り口に珠を作ったが、すぐに形を崩し、いく筋もの流れとなってしたたり落ちる。ゲアトルドが歯を食い縛る。額に大粒の汗が浮かんだ。縛り付けられた四肢で、彼は身じろぎする。ああ、と薄弱な誰かの悲鳴が漏れる。
その間にも、執刀は目にも止まらぬ速さで、いささかも滞ることなく進む。迷うことなく女は刃や針や名も知れぬ器具を持ちかえ、傷口を広げ、現れる器官を切り取っては端から閉じていく。果たして人体の内部について彼女はいったい如何にしてここまで精細に知り得たのか。さらに不思議なことに、濁り目をした僕達は、彼女から何の言葉も受けずとも流れるように彼女に的確な器具を手渡し、溢れる血を拭い、また彼女から返された器具を受け取った。すべて一人の人間が操る人形劇のようである。
それが予定調和に見えるのは、一つにゲアトルドが声をあげないためもあった。老人の手も脚も顔も、力が入るところは全て白く強ばっており、彼をさいなむ激痛をうかがわせたが、彼はそれ以上の醜態は見せなかった。眼を見開き唇を噛みしめ、自身に施される刑を凝視している。今さら、痛みが彼の鋼の精神を腐食することはできない。ただ己と息子が主君に犯した過ちへの懺悔が彼の心を打ち叩き、衆人環視で去勢される恥辱すら、しかるべき報いとして耐えていた。またこれによって生かされる幼い命を思えば、甲斐のある呵責である。
程なく、まず陰茎が切り落とされた。次に睾丸が肉体を離れると、女はあらかじめ台の上にすえられた銀の盆に、それらを丁重に、しかし欠片の尊重もなく、置いた。
人々が息を呑むその前で、すぐさまユーグはこの盆を取った。胸の前に掲げながら、再び壇上の中央、台車の前に立ったシェリーの元へと運ぶ。先程までの多弁が嘘のように彼は神妙な面持ちで膝をつき、それを主人に差し出した。
静まり返る中、彼女は素手で盆の上からそれらを取る。
そして、即座に握り潰した。
管から押し出された血液は泡となって飛び散り、ひしゃげ、ちぎれた皮膚の間からは肉が、臓器がはみ出す。
毅然さを保っていたゲアトルドも、こればかりは喉からくぐもった声を漏らした。
「犬を放て」
凜とした声が命じると、すぐさま大扉が開けられ、そこから数匹の犬が飛び込んでくる。犬達は飢えているようで、血のしたたる拳に一目散に駆け寄ると、涎をたらしながら周囲を巡った。
数秒、彼女は前を見据えた。犬達を焦らすように、人々に見せつけるように。そして手の平を下に返すと、ゆっくりと開いた。
落下の最中、肉片の一つは空中で捕らえられ、一頭が独占を叶えた。床に落ちた肉片には、複数の犬が群がる。彼らは味わうことなど知らない。小さな肉片を奪い合い、一方が勝利するとすぐさまこれを呑み下す。
犬達が全てを平らげるのに、十秒もかからなかった。
到底満ち足りない犬達は尚も周囲を嗅ぎ回り、シェリーに次をねだったが、従者達に追い払われ、また扉の外から呼び戻されると、すごすごと走り去った。
騒々しい足音や鳴き声が遠のくと、再び静寂が室内を支配する。汚れた右手を拭おうともせず佇む辺境伯代理の後ろでは、ただ黙々と処置が続けられている。最後の一針が終わると、女は傷口や周囲の血を拭った。明らかになった管に、癒着を防ぐための、細く滑らかに磨かれた木栓を詰める。
そこで、女はそれまで一呼吸も間を空けなかったはずの手を止め、膝の上に置いた。瞳を閉じる。見計らったユーグが合図をし、男達は台車の固定を外した。台車がその場で回るのに合わせて、シェリーが再び一歩横に退き、かくして老人の体は隠すものもなく、より赤裸々に人々の目にさらされた。最早そこに男の性の象徴である隆起はなく、ただ傷口ばかりが赤黒く腫れ上がっている。繊細な縫い目の多くではすでに血が止まり、傷口の生々しさを余計に際立たせる。人々は食い入るように見入った。憤怒とも羞恥とも知れぬゲアトルドの必死の形相を笑う余裕のある者さえいない。
「諸君」
彼らと同じ様にそれを見つめていたシェリーは振り返り、おもむろに口を開いた。初めて人々を見回す。その瞳の憂いに何人が気づいただろうか。静かな紅い光を受けて人々は居住まいを正す。
「我が同胞、我が盟友達、そして敬愛なる国王よりの使者の方々」
と、彼女は先にユーグが述べたような、参列者へのねぎらいを繰り返した。そして続ける。
「彼ほどの――先代である我が祖父にも、今の我が父にも長く仕え、数々の栄光を捧げた忠臣に、このような形の報いを与えることとなり、父も私も、悲しみにくれている」
猛々しさで知られるエデルカイト家の当主代理の口から、このような言葉が出るとは思わず人々は耳を疑った。同時に幾人かは、この場がただ惨たらしいだけの見世物ではなく、彼らにとって、辺境伯代理の後継者の手腕を見定めるための機会であったことを思い起こす。相手は小娘である。与し易いか、御し易いか。無知ならば有り難い、愚鈍であってもおだてに乗るようならそれも良い。
「聞けば、彼の息子は私の父が彼に与えた恩賞を不服としていたという。我々の裁量がこの度のような大禍を呼んだのであれば、真に遺憾である。
そして、その結果、彼のような誇り高い者に命乞いの辱しめを受けさせた。不満のある者が口をつぐみ、心中に不善を為したとなれば、彼らの誤解が悔やみきれない。
何故我らが、求める者に与えないだろうか。欲する者は申し出よ、望むように取らせる。それが我らのやり方である」
それを聞いて、一人ほくそ笑む者、互いに目配せし合う者、どれも彼も内心の算段に夢中になった。しかし彼らの思いを遮るように、シェリーは血にぬめる右手をかざした。再び人々の視線を集め、赤い拳を握る。厳しい、獣のように見開かれた眼差しが人々を射抜く。険しさを帯びた声が告げた。
「だが、我らに物を乞い、益を得たいと図る者は、更なる慎重さを持つがいい。
とりわけその対価について―――その者はよく知る必要がある」
その手は、決して柔和な女のそれではない。剣を握るために厚くなった皮の上に、太い血管が浮き、さらにそこに魔法使いに特有の魔力光が宿る。従者達が一斉に膝をついて主に敬意を払い、気圧された人々はそれを見て、我を取り戻す順に腰を折った。
最後の一人が顔を伏せてから、シェリーは右手を下ろし、壇下へと踏み出した。立ち上がった従者達が楚々と続く。ユーグや助手の女達は後処理のためにそこに留まった。
台車の上、取り残されたゲアトルドは命を捧げ続けた主君からの、何物にも代えがたい信頼を失ったと改めて知り、痛みすら感じず首をうなだれた。張りつめていた神経は思う以上に老人を疲労させている。しかし朦朧とする意識の中、不意にシェリーの言葉の意味を悟ると、彼は呻き声をあげた。平静を失い、身を起こそうとして、いまだ続く拘束に阻まれる。せめてとばかりに、人々の間を抜け、去っていく背中に向かって叫ぶが、長く食い縛っていたために硬直した頬は震え、言葉にならない。それでも彼は醜聞も忘れて声をあげ続けた。
しかし、長い外套の裾をたなびかせたその背中は、目映い光の向こうに消えるまで、一度も振り返ることはなかった。
ベルスートの城下へと吹き下ろす風は、血の臭いを孕んでいる。城から街へと続く坂道の途中、設けられた広場は処刑場へと変わっていた。
今回は、辺境伯領全体を揺るがす策略の首謀者であったゲアトルドの息子を始め、その妻や弟妹が刑に処された。彼らの内、少なくとも爵位を持つ貴人は断頭を許された。しかしそれ以外の者達は、身の丈を越える長さの太い木の杭に身を貫かれ、生き絶えた後も立てられた杭の上で無惨な姿を晒していた。処刑人の腕によってはまだ息を繋いでいる者もいる。いずれ果てる運命を思うと、どちらがより幸運であったか言うまでもない。
遠く離れた彼らの領地では、家来から使用人に至るまで、数多くが同じ様に処されているという。
その下には一部始終を漏らすことなく見せつけられた、齢10にも満たぬゲアトルド将軍の孫が、白目を向いて失禁し、もはや正気を保つことなく倒れ伏していた。