「君は、運命を信じるかい」
「もちろん僕も手放しでこれを信じているわけではないよ。
この立場に生まれた以上、それをするのは無責任と謗られてしかるべきだろうね。
この世の全てが予め定められた通りだなどと、
民の命や財を預かる身として、どの口が」
「けれど、あえて言わせてくれ」
「僕は君との出会いに運命を感じている」
「考えてもみてくれ、あの時あの場で僕らが出会い、
そして今こうしているだなんて誰が予想しただろう。
君は僕がいるのを知っていたけれど、目的は僕などではなかったし、
僕にしてみればそもそもあの出会い自体、全くの想定外だったからね」
「けれど僕らは出会い、そしてその結果――」
「僕は人生において重要な、決断を迫られた」
「前も言ったけれど、そのことで君を恨んでなんかいないんだ。
本当だよ。
聖人君子なんて柄じゃないはずなんだけどね」
「感謝――とまでは、さすがに言いすぎかな」
「この身体は不便が多い。
でも後悔していないのは、本当だ」
「あのときああしていなかったら、僕はどうなっていただろう?
戦場に立ち続け、程なく命を失ったかもしれない。
何せ、周りの大人も皆、世界は何でも自分の思い通りだと思っていたからね。
勇気と無鉄砲をはき違え、がむしゃらな若さで突き進み、もっと過酷な罠に陥っていたかもしれない」
「なんて、考えるまでも無いな。
結局、僕は今の自分に、満足しているんだと思う」
「それは君との関係も含めてさ」」
「僕があの時あそこで君と出会い、そしてこの身体になったのも、運命なのか、なんて思うんだ」
「運命という言葉が大袈裟なら、そうだね、縁とでも言えばいいのかな」
「東方の諺で、『袖すり合うも多生の縁』というのがある。
見ず知らずの人間同士が往来で、たまたま袖が触れあっただけという仲でも、この広い世界、幾多と生きる人間の中では、何かしらの意味があるということらしいよ」
「君と僕の関係はきっと、この縁というものなんだろう」
「これからずっと、それを大切にしていきたい」
「だからハーティ」
「殺してくれだなんて、そんな悲しいことは言わないでくれ」
「明日君をユスチーヌ救済院という所に連れていこうと思うんだ。
最近新しく建てられた傷病兵のための救済院でね、評判が高い。
僕も一度訪れたことがあるけれど、院長はとても崇高な理念を持った素晴らしい医者だよ。
そして彼に熱意にあてられた看護人達もまた、情熱に満ち溢れていて、多くの負傷兵を抱えているけれど不平の一つも言わない。
『このままでは患者を受け入れきれません。どうか、ベッドの数を増やして下さい』
そう言われたよ。
きっと君も気に入るよ。
そこでゆっくり休んでくれ。
半年でも、1年でも、構わないよ。
そもそも一番最初に君と再会できたときには、もう3年も経っていたんだからね。
君に再会できたときの喜びと言ったら、未だに鮮明に覚えているよ。
ああ、一つ後悔してることと言えば、そのとき君の腕を――ごめん、また話が長くなるね。
とにかく、気長に待っているから、どうかゆっくり休んでくれ」
「落ち着いた頃に、また迎えにいくよ」
→原寸