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多くの王侯貴族がそうであるように、お嬢様の衣装部屋には、様々な趣向の凝らされた衣装が数多く納められています。
もっとも目を引くのは大きな戸棚に入った豪奢な外套や上着ですが、それより小さな棚の引き出しを開けてみても、
並べられた小物が豪華さの点でひけをとるということはありません。
なかでも手袋というのはお嬢様のお気に入りの装飾で、折にふれ、様々な素材や形でいくつも作らせました。
普段、外出されるときなどに愛用されているのは手触りのよいシルクのそれです。
あるいは特別な祭礼の場で着用される手袋は金糸や銀糸で彩られ、普段は鍵のついた戸棚に入れられています。
またお嬢様が召されることは滅多にありませんが、ドレスに合わせた美しい長手袋などもいくつかコレクションの中に入っています。
そして、ときおりお嬢様は、たいていは夜も更けた頃に、これから遠出するわけでもないのに乗馬用の革手袋を召されることがあります。
普段使いの白手袋と比べると、つややかな黒のそれはいささか無骨に映りますが、
同じく革で作られた鞭がその手に収まると、いかにも馴染んだ様子です。
それを前にして、ルディはふるえる喉で息をのみました。
すっかり準備を終えたお嬢様は、ルディのおびえた顔を見てにやりと笑いました。
その手の中のムチが一度、乾いた空気を切り、それが合図です。
絶望に染まったルディの瞳から、涙が一筋滑り落ちました。