Princess & Maidenとは

 ファンタジーで男装・女装、近親・同性愛、その他様々な不道徳をテーマにしています。

 <本編> →独立ページあり
 少年ルディを主人公にした小説。

  ・あらすじ
 地下に追いやられ、肉親から虐待を受け続けるルディは、炎の夜、一人の少女と出会う。
 髪を短く切り軍服に身を包む彼女は、男装のプリンセス、シェリー・エデルカイト=フォン=ホーゼンウルズ。
「お前は私の侍女になるのだよ」
 否応なく連れられたベスルート城でルディは女装させられ、侍女として働くことになる。
 初めて見る外の世界。城での華やかな生活、気まぐれで残酷な姫君、苛烈な性の目覚め、血なまぐさい陰謀、仕事の喜び――
 運命に翻弄されながら懸命に生きる少年が、最後に選択するものとは。

 です・ます調のやわらかい文体です。おとぎ話や児童文学などの、すこし古めかしい感じ、そして訳文らしさを意識しています。
 生い立ちのせいでほとんど無知な状態であるルディを主人公にしているため、ベルスート城や他のキャラクター達、世界観等の描写はていねいです。
 先行していた外伝に比べて、登場人物も少なく、唐突な展開もないためか、“思っていたより読みやすい”という声は複数いただきました。

 <外伝>
 一枚絵や四コマ、短編など。左のメニューに列挙。
 そのときの思いつきで描いているので、一つ一つは独立し、本編よりは奇抜でどぎつい描写が多数あります。
 かなり長い期間、本編より先行していたので作品数は本編よりも多いです。

 <タイトル>
 『お嬢様とメイド・乙女達』的な意味です。略称は“プリメイ”で、もっぱらこちらの略称を使用しています。昔は『お嬢様とメイドさん』と称していましたが、長いのでこうしました。
 男装したお嬢様が女装メイドや百合メイドや小姑メイド、あるいは従妹や従兄、人肉食双子等いろんな人とキャッキャウフフザンバラリするお話です。

 <舞台>
 ファンタジーで欧州中世封建的な世界における、イブリール王国の東部にあるホーゼンウルズ辺境伯領内、主都ベルスートにあるベルスート城が主な舞台です。


登場人物
設定は常に暫定です。

   <エデルカイト家>

┌─ オブリード
│     │
│     ├──── シェリー
│     │
│   エルメイア
│  
│  
│   (前妻)
│     │
│     ├──── イオス
│     │
│     ├──── ケンニヒ
│     │
├─ フェールート
│     │
│     ├──── アイメテ
│     │
│    (妻)

└─ テサラ

   <その他の人々>
侍女…エヴァ♀ サヒヤ♀ ルディ♂ リゾルテートnew!
使用人…チュニパ♀・チーピィ♂ マシア♀・エレイザ
その他…レントウ アスヘールnew!


 シェリー・エデルカイト・フォン・ホーゼンウルズ
 ――『そう哀しそうな顔をするな、私もいずれそこに行く。そうすればまた、殺し合いだ』
【性別】女  【年齢】17才  【職業】トニエール子爵、ホーゼンウルズ辺境伯代理

 <登場作品>
アイメテ&シェリーシェリーと内臓

 ホーゼンウルズ辺境伯オブリードの一人娘。母エルメイアは現イブリール王の末娘であるため王位継承権を持つが、下位であるため普段はほとんど意識されない。常人よりも長く伸びた犬歯は『狼姫』と呼ばれた祖母譲りで、この遺伝的特徴は父や従兄弟達にも顕著である。
 女性の身でありながらも、生まれたときから父の後継者として育てられる。幾度か戦地を経験した後、14才で成人すると共に、代々の辺境伯の長子が継いできたトニエール子爵領を父から拝領した。これによって周囲からも略式ながら本格的にホーゼンウルズ辺境伯の後継者として目されるようになる。そして現在、父が病床であるためにホーゼンウルズ辺境伯代理を名乗り、臣下や親族と共に執務を行っている。
 過酷な運命の中で、戦地においてのみならず、幾度となく死の淵に立ってきたが、その度に周囲の助力と強運、そして実力により生き残ってきた。その内幾つかは他ならぬ実父の手によるもので、生きたまま埋葬されたことや、全身を焼かれたこともある。しかし彼女は父の愛情を微塵も疑っていない。
 出産を期に廃人となった母からは、そもそもその存在すら認識されていないが、彼女は母親のことを気にかけている様子で、定期的に使いをやってその安否を確認させている。
 剣術と魔術による多彩な戦法が特徴で、近接戦では自己講呪による肉体強化と幻術で相手を翻弄し、中・長距離では『ニベルンの乙女達』と呼ばれる盲目の少女の姿をした使い魔達を媒介に複雑な術式を編み、戦局に多大な影響を与える。その他、『手品程度』の地火風水基本魔術も扱い、拷問用の術式を創作したりももしている。
 直属の軍隊として『誉れ高き近衛兵団』を持ち従兄のケンニヒがその長に就いているが、父が用意したそれとは別に私兵として人材を集めており、サヒヤやチュニパ、チーピィらがこれにあたる。その他ルディのように、直感と気まぐれで旅先から人を連れて帰ることがある。
 性格は傲慢で残酷、利己的で享楽主義だが、一方、無防備で寛容、博愛的という二面性を時に意図的に、時に無自覚に見せる。善きにつけても悪しきにつけても触れ幅が大きく、無謀かと思えば用意周到、計算かと思えば天然、執着したかと思えば突き放す、そしてその逆もまた然りと、時と場所と相手を選ばずその奔放さが発揮される。真っ当な人間ならばこれに大いに振り回されるべきだが、彼女の周囲は、全て卒なく受け止める者、追従する者、受け流す者、いずれであろうと否定する者、そも矛盾に気づかない者、等それぞれのやり方で対処しており、右往左往戸惑うのは慣れていない者だけである。

 オブリード・エデルカイト・フォン・ホーゼンウルズ
 ――『愛しき我が娘よ。果たしてそなたが見る地獄は如何なるものであろうな』
【性別】男  【年齢】52才  【職業】ホーゼンウルズ辺境伯


 エデルカイト家の現当主として親族の頂点に立ち、ホーゼンウルズ辺境伯としてはイブリール国王に忠誠を誓いながらも、自領では自らが君主であるかのように振る舞っている。
 性格は豪胆、豪放にして残忍、苛烈。戦場における一騎当千の戦いぶりは、『イブリールの魔人』と恐れられている。
 28才の時、母による父の暗殺を受けて辺境伯領を継承。その初仕事は逃亡した母親の捜索であったが、これは現在に至るまで未遂のまま続いている。それ以前から近代魔法兵器の開発による軍備増強に注目しており、代々強力な魔術師を排出している王家から末娘のエルメイアを妻に迎え、子を成したのはその目的があったのではないかと推察される。
 正妻であるエルメイアは離宮での生活を余儀なくされており、彼は何ら憚ることなく多数の愛人を邸内に侍らせている。一方一人娘であるシェリーを深く愛しているが、その狂気故に気まぐれに彼女を死地に立たせること再三である。そのため彼女に近い立場にあるエヴァやサヒヤ、その他の直属の部下からは忌み嫌われ、最も警戒すべき人物と認識されている。
 その気質や実力を合わせて非常に強力な指導者であるが、現在病床にあり、その権限の一部を後継者であるシェリーに貸し与え、それを補佐するよう家臣や弟のフェールートに命じている。

 エルメイア・エデルカイト・フォン・ホーゼンウルズ
 ――『………………』
【性別】女  【年齢】32才  【職業】ホーゼンウルズ辺境伯夫人

 <登場作品>
狂った女

 王家に生まれながら病弱を理由に公式な場に姿を表すことがほとんどなかった彼女は、生まれつき精神薄弱であったとされる。それ故に王族として生まれ持った膨大な魔力を制御・発現する術を学ぶことはなかった。両親である国王夫妻はそれを大いに恥じ、娘を宮廷の奥深くに住まわせたが、穏和な気質であったために、兄弟姉妹、また召使いからは無垢な姫君として愛された。しかし、ホーゼンウルズ辺境伯に嫁いだことによる環境の変化と望まぬ妊娠によって彼女の精神は不安定になり、最終的に出産を経て完全な狂気へと陥った。
 それが何であるかを理解できないまま、いつ終わるとも知れぬ、そしてその後の喜びを見出せない苦痛に苛まれた彼女の口から出た言葉は死の呪いを帯び、出産に立ち会った産婆と医師、そしてそれらの助手、計4名が命を落とした。それ以来、発する声全てが死の呪いを宿すようになったため、ベルスートの離宮に隔離され、着る服全てに呪いを中和する文様が縫い込まれている。また首にかけたカラーにより、声そのものを封じられている。
 出産直後に気を失ったため、彼女は娘の産声すら聞いておらず、それどころか妊娠の自覚自体がないので、現在に至るまで我が子の存在を認識していない。
 彼女がオブリード伯に嫁いで以降、彼女のためにとオペラや植物園などいくつかの施設が王家の援助により建てられたが、最早彼女がそれらを楽しむことはなく、離宮で正気を失ったまま、数人の召使いに世話をされて、ただ無為に日々を過ごしている。

 
 フェールート・エデルカイト・フォン・ソゾン
【性別】男  【年齢】45才  【職業】ソゾン伯爵

 オブリード辺境伯の弟で、ソゾン伯爵。
 幼い頃から兄であるオブリードに心酔しており、兄が辺境伯となった際には自ら補佐的立場に就いた。その後外交手腕を買われ、他領に隣接するソゾンを任される。
 その間に兄より早く結婚し、イオスとケンニヒという二人の息子に恵まれるが、妻とは死別した。その後二度目の妻を迎え、娘のアイメテをもうけた。彼の三人の子供たちは皆、幼い頃から主家であるベルスート城を度々訪れているため、シェリーとは兄妹のように仲がいい。
 小太りの外見が示すように昔から運動は不得手で、また気弱で日和見主義的な発言が目立つ。しかしその実、蛇のように執念深くしたたかな男である。
 親愛やまぬ兄の娘であるシェリーには同様の陶酔を見せており、その足下に喜んで我が身を投げ出す所存でいる。事実、彼は次男であるケンニヒをこの姪に捧げている。

 イオス・エデルカイト・フォン・ソゾン
 ――『懐かしく、そして甘美な思い出だね。まさに身も心も凍るような』
【性別】男  【年齢】23才

 <登場作品>

 ソゾン伯フェールートの長男、ケンニヒ・アイメテの兄、シェリーの従兄。隻腕である。
 父であるソゾン伯にならい、宗家であるオブリード辺境伯とその娘のシェリーに忠誠を誓っている。既婚。言動は華やかでやや気障だが、十分な思慮深さを備え、知略に長ける。
 かつては文武両道に秀でその将来を期待されていたが、18の時、遊学中に反王国派による襲撃を受けてシェリーと共に雪山で遭難し、食料のない中彼女に自身の左腕を捧げた。奇跡的に生還して以来戦いの場からは身を引いているが、一層学に励むことで今や父親の片腕を務め、またその忠義を受けて辺境伯やシェリーからの信頼も厚い。
 彼の妻はシェリーと同じ17才で、慎ましく控えめな性格だが芯は強く、夫のことを愛するがゆえに彼の失われた左腕とその原因、つまりシェリーには複雑な思いを抱いている。
 エデルカイトとしては気の長い方で、左腕を失う原因となった雪山での襲撃犯を捕らえ、拷問を加えては逃がすという“遊び”をもう3年も続けている。

 ケンニヒ・エデルカイト・フォン・ソゾン
 ――『…………主命のままに』
【性別】男 【年齢】19才  【職業】シェリーの近衛兵団長

 <登場作品>

 亡き母から受け継いだ鮮やかな赤毛を持つが、そのせいで兄や妹とは異母兄弟と見られることが多い(実際に母親が違うのは妹のアイメテである)。
 幼い頃からシェリーに仕えるために、オブリード伯の元で育った。そのためシェリーとは兄妹のような仲にあり、公には家臣という立場だが私的な場面ではシェリーと対等に口がきける。
 非常に頑強な肉体を持ち、『ホーゼンウルズの盾』と賞される高い実力を備えているが、周囲の様々な環境が彼に満足を許していない。とりわけ、文武両道であった兄への親愛と尊敬、そして嫉妬の思いは、兄が左腕をシェリーに捧げ、絶対の忠義を示すと同時に剣の道から退いたことで昇華の機会を失い、生家とのよそよそしい関係の一因となっている。
 この兄の件や、ドラゴン種族による領主舘襲撃の際、主君の危機を前にしてほとんど無力であったことから、自らの力量と忠義を問うために一度国を出奔した。流浪の末、伝説の武器である『聖戦士の槍』と『聖戦士の盾』を携えて再びシェリーの元に馳せ参じた。普段は小手の形をし、彼の命に応じて本来の姿に戻る驚異の武器を手に、戦場では無類の堅固さを発揮するが、それらの銘の華々しさと自らの有り様の差にしばしば思い悩んでいる。
 このようにエデルカイトとしては珍しく陰鬱な性格をしており、他の親族のような言動の華やかに欠ける。ただ寡黙で感情を表に出さない冷静さから、部下である守護隊を始め周囲からの信頼は厚い。
 しかし彼もまたエデルカイトの狂気から無縁ではなく、戦場で敵をほふる際の微笑みは味方ですら戦慄させる。

 アイメテ・エデルカイト・フォン・ソゾン
 ――『お姉様、お会いしとうございました!』
【性別】女 【年齢】14才

 <登場作品>
アイメテアイメテ&シェリー

 ソゾン伯フェールートの長女、イオス・ケンニヒの異母妹、シェリーの従妹。母親は後妻であるため、イオスやケンニヒとは異母兄妹となるが、お互いとても仲がよい。
 彼女本来の気質としては奔放を好むが、エデルカイトの膿み爛れた家風に馴染まず彼女の純潔を守ろうとする母親によって、外界から隔離された窮屈な生活を強いられている。その証として純白の衣服を義務づけられており、制限の多いこの服装を彼女は忌み嫌っている。しかし枷の最たる物は、彼女の肉体そのものにかけられたまじないである。秘部に触れた者の命を奪うとされる強力なそれは、日々女として成熟する彼女の肉体に多大な苦痛を与え続けている。
 自身の境遇と照らし合わせて、また同性の近親者として、シェリーには強い憧れを抱いており、幼い頃から姉と呼んで慕っている。シェリーも彼女のことを大変可愛がっている様子である。そのためしばしば、彼女は父親の公務に着いてシェリーの元を訪れる。
 感情の起伏が豊かで、無邪気さと残酷さを持ち合わせるが、反面幼いゆえの浅はかさも垣間見える。シェリーの元を訪れた際に、初めはシェリーの側にいる同じ年頃の異性という理由でルディに激しい敵意を見せたが、すぐに興味を持ち、一度は彼を自分に贈るようシェリーにねだった。しかし結局ルディがシェリーを選び、“賭け”に負けたことで、シェリーの鞭によって辱しめを受けた。
 この一連のやり取りは“ただの戯れ”であるため、とりたてて遺恨を残してはおらず、むしろこれ以後アイメテは忙しいシェリーの代わりにルディを相手にすることで暇を潰している。
 将来的には、母の生家のある隣国の貴人に嫁ぐことが見込まれている。

 テサラ・イブリニ=イブジル
 ――『ねえ泣かないで、あたしの大切な貴方。あたし貴方のためなら、何人だって赤ちゃんを産んであげるわ』
【性別】女  【年齢】42才  【職業】イブジル侯爵夫人

 <登場作品>

 他家に嫁いだ、オブリード、フェールートの妹。シェリーやアイメテにとっては叔母に当たる。
 彼女の夫イブジル候は、誰からも凡庸人畜無害と評されるようなごくごく平凡な男であるが、彼女はこの夫を心から愛しており、嫁いで以来、彼のため自らの美を保つことに苦心し続けている。兄弟達曰く、昔から大変な努力家であったという彼女は、種々の食事制限や運動、マッサージや下着による矯正を駆使することで、三男五女を産みながらも、理想的な体型を維持していた。
 肌の美しさにもまた理想を追い求めた彼女は、美容液を作る際に、薬草や鉱物の他、処女の生き血や胎児の肉などを利用したとされている。
 幼い頃から活発で、病弱で大人しい姉とは対照的に、兄らに付いて狩りにまで参加するほどお転婆だったという。この頃、父から拷問具、処刑具の使い方を教わり、それらに慣れ親しんだ。残酷さにおいて兄らに勝るとも劣らないが、エデルカイト家に連なる者の常として、マゾヒスティックな面も持ち合わせた彼女は、夫への貞節を示すために自ら好んで貞操帯を常用している。

 エヴゲミーア・ステッパノヴィツ・タタル
 ――『どこであろうとお供いたします。それが戦場ならばなおのこと』
【性別】女  【年齢】30才  【職業】侍女頭、従医  【通称】エヴァ

 <登場作品>

 遥か北方の凍地の生まれで、死者のように白い肌と、艶のない金髪という民族的特徴を色濃く持つ。
 古くから続く権威ある医術士の一族に生まれ、その中でも彼女は際立って優れた力量を認められていた。しかし祖父の急死によって父親と叔父の間に、一族と周辺諸部族を巻き込んだ壮絶な家督争いが勃発。数年の抗争の後、父側が敗北すると、エヴァ達家族は隷属的な立場に置かれた。家族が次々と命を落とす中、21歳の時に父と共に故郷から逃亡し、他国の有力者の庇護を求めた。父とオブリード辺境伯の間の取り引きにより、その娘であるシェリー(当時8才)に仕えることとなる。父親はその後単身故郷に戻ると、消息を絶った。
 彼女の一族は、医術の発展にそれを利用すべしという考えこそあれ、癒しを施すことによる富や名声はおろか感謝の言葉にすらに興味を持たず、ただひたすらに技術の向上、知識の深化に腐心している。その執着の前に一族の新生児の性別や個性などは考慮されず、皆一様に教育を施され、向き不向きが決すると後者は容赦なく打ち捨てられた。また、適宜近親婚を行い遺伝的な素質の保全に勤めた。
 このように彼らが常に理性的に、そして妄執的に、他者と自らを犠牲にしながら発展させてきた医術は、今やあらゆる病を克服し、失われた器官の再生すら可能と言われている。エヴァがこの技術をもって過酷な覇道を歩む主人を死の淵から救い出したことは一度や二度ではなく、10年近い主従関係の中で築かれた信頼関係は他の誰よりも強固である。
 本来は従医としての役割のみが期待されていたが、まだ幼い主人の健康管理を皮切りに、雑多な身の回りの世話も任されるようになり、現在ではスケジュール管理等の秘書的な役割もつとめている。日々の主人の要求に応え、また医術士として戦場にも随行するため、技術の研磨を含めると寝る間もないほど多忙を極めている。持ち前の勤勉さでもって、何事もそつなくこなしてみせるために、諸々の雑事を引き受けてしまい、またその負担に周囲が気づかないという状態に陥ってしまっている。
 理知的な女性で自他に厳しく、またシェリーの命さえあればあらゆる犠牲をいとわないため、周囲からは頼りにされながらも恐れられている。
 役割上戦地に随行するが、本人は完全に非戦闘員であるし、好んで他人を害することはない。ただ人体急所に詳しいことと人を傷つけることにためらいがないことから、慣れた刃が手元にあれば、不意をついて無防備な相手の喉をかき切るくらいのことはできる。
 さらに彼女ら一族の持つ医術の源流は彼の地で古くから行われてきた屍霊術にあり、優れた医術士である彼女はまた優れた屍霊術士でもある。今までに主人の犠牲となった数百の人々の死体を収集しており、有事にはそれら死者の軍勢を使役する準備があると言われている。彼女が日常的に使役する屍のいくつかは年若くして死んだ彼女の兄妹達だが、彼の地の常として、彼女はそれに特別な意味を見いだしてはいない。

 サヒヤ・シェリト
 ――『お嬢様、ろくな事が言えないならせめて黙っていてください』
【性別】女  【年齢】21才  【職業】侍女、剣術指南

 <登場作品>

 シェリーに仕える侍女で、エヴァにとっては後輩、ルディにとっては先輩にあたる。平民身分でありながら類い希なる剣の才を持ち、単純な剣の優劣で言えばシェリーを凌ぐ。
 気難しく、誰に対してもあまり友好的ではないが、とりわけ主人であるはずのシェリーに対しては常に嫌悪と軽蔑を露にしている。一応敬語を使ってはいるものの、その態度は慇懃無礼そのものである。一方、自分以外の無礼者には容赦しないという二重基準も持ち合わせている。面倒を嫌う故から争いを好まないが、我が身や主に降りかかる火の粉への容赦は一切ない。言動は常に自信に満ちているが、根拠のないそれで人を戸惑わせることもしばしばである。
 生まれたときから父はなく母親と共に各地を流浪していたが、母が病に倒れたことで定住し、女中として働き始める。15才まで、当時大陸最強と謳われたエイドス剣術の宗家が構えるヒンブル砦に奉公していた。そこで彼女は剣術の訓練を目にし、その技を“覚えた”。しかし総師範である城主がこれを知ると、彼女は女の身で剣を持った罪、また多数の門徒を誘惑した罪で私刑に処せられることとなる。その場で彼女は、城主やその弟子数十人を始め、城主の家族と、自分の同僚である使用人多数を斬殺した。処刑の場に居合わせた城主と弟子らの殺害は自らの救命のためと言えるが、それ以降の直接関係がない人々の殺害は、自らの犯行を隠すという保身のためであった。
 大虐殺の後彼女は母と共に逃亡し、17の時に別の奉公先でシェリーに見いだされた。それ以来、侍女兼剣術指南役としてシェリーの元で働いている。
 彼女の持つ一振りの剣『露の刃』は扱う者の腕次第で切れ味を変えるという代物で、大陸最強と謳われたエイドス剣術を一目見ただけで会得した彼女が振るうとき、その刃で切れぬ物はないとされ、事実彼女は魔術や幻ですら一刀両断にしてしまえる。この剣は剣術の創始者である剣聖エイドス以来その後継者に代々受け継がれヒンブル砦に保管されていたが、大虐殺以来彼女が携行している。この神代の宝物にしろ剣術にしろ、そして主君に対する忠誠のあり方や誉れ高き人生観等、自身は全く意識しないままに、彼女はエイドス剣術の継承者として生きている。
 私生児であった彼女の実の父親とはオブリード辺境伯であり、シェリーとは異母姉妹の関係となる。本人が母親からこれを知らされたのは、シェリーに仕え始める前日であった。それでも彼女がシェリーに仕えることを選択したのは、一つに母を養うための給金が目当てであったし、一つに同族と惹かれ合うエデルカイトの血があり、そして一つに、例えその秘密が誰に知られようとも、そしてそれが当の異母妹であれば尚更、自らを守るために全て叩き斬るという確信が彼女にあったためである。
 盾であるケンニヒとの対比で、シェリーの剣と例えられることもあるが、その刃は常に抜き身である。

 ルディ・ヒュドラー
 ――『っごめんなさい、あの……どうか……ご無事で』
【性別】男  【年齢】14才程度  【職業】侍女見習い

 <登場作品>

 ホーゼンウルズ辺境伯領内の国境近くの町の出身。貿易を行う裕福な家庭に生まれたが、母が未婚であったため、母と共に自邸に幽閉されて育つ。10才の頃にその母が病死して以降は、祖父母たちから奴隷のような扱いを受けていた。過酷な労働と虐待、そして寄る辺のない孤独の中で、感情の起伏や時間の感覚さえ失っており、自分の年齢も定かではない。
 ある日、常習的に密貿易を行なっていた国境周辺地域の中で、彼の住む町が辺境伯代理となったシェリーの粛清を受ける。見せしめとして、一方的かつ徹底的に行われた襲撃の中で親族は皆殺しにされ、偶然シェリーの目に留まった彼だけが生きたまま主都ベルスートへと連れてこられた。そこで男の身でありながら、侍女としてシェリーに仕えることとなる。
 育った環境ゆえに臆病さが目立つ。常に他人の顔色をうかがっており、シェリーからの暴力を恐れる反面、不意に優しさを受けるとどうしていいかわからない。どんな責め苦を受けても翌日には何とか立ち上がれる程度の頑丈さを持っているが、必ずしもそれが彼にとっての救いとはならない。陰りばかりが目立つが、本来は心優しく、小さな事にも喜びを感じる非常に純朴な性格をしている。
 現在エヴァやレントウ、その他の使用人達によって侍女としての心得の他、一般常識や簡単な読み書き、計算を教えられている。曖昧ではあるが幼い頃に母親による教育が施されていたらしく、覚えはそう悪くはない。また素地として豊かな好奇心と己の無知を恥じる謙虚さがあるため、本人も学習に意欲である。
 長く伸びた耳は、父親が卑しい使役動物だったためと長年祖父母たちから言われ続け、本人はそれを信じている。しかし、前例がないとしてエヴァやレントウからは否定されている。結局父親に関しては一切が不明である。

 リゾルテート・ランドル
 ――『大丈夫ですよ、お嬢様。ほら、ここなら誰にも見えませんから』
【性別】女  【年齢】19才(死亡時)  【職業】侍女  【通称】リズ

 <登場作品>

 幼い頃のシェリーの侍女。故人。シェリーの乳母の妹で、シェリーが乳離れし、何人か侍女が交代した後に、12才の時から幼いシェリー(当時5才)の世話役としてベルスート城で働くようになる。比較的豊かな市民階級だった生家が娘を奉公に出した目的は、給金よりも、行儀見習いや、城仕えの名誉、エデルカイト家との縁故にあった。献身的で真摯で爛漫、機転が利いた。そして強い意志を生まれ持ち、城主達の権威に対する敬意はあれど、その脅威に臆することはなかった。
 年下の主人であるシェリーには常に真正面から向き合い、ときにいさめ、共に笑い、涙を流し、そしてエデルカイトの血筋を差し引いても、たいへん手のかかる子供であったシェリーの全てを受け入れた。教養や礼儀作法の知識、立ち振舞いなど、必ずしも貴人の侍女にふさわしい程ではなかったが、当時シェリーが必要としていた愛情や母性を全てを兼ね備えていたと、後身であるエヴァは語る。エヴァにとっても、異国の地で優しく接してくれた人物であり、故郷での過酷な境遇を慰めてくれた人物である。
 このようにシェリーにとっては唯一無二の存在であり、他の者にも深く影響を与えた人物であったが、彼女が19才のある日、シェリーの腕の中で事切れているのが発見された。部屋中に血が飛び散る、凄惨な状態であったとされる。
 彼女の殺害に関わる最も疑わしき人物として城主であるオブリード辺境伯が挙げられ、またその娘のシェリーにも今さら殺人に何の理由が必要なはずもなく、あるいは彼女の寵愛をうとんじた何者かによる犯行とも噂されたが、結局犯人探しすら行われず、彼女の遺体はエデルカイト家の墓所の片隅に葬られた。
 ケンニヒが出奔中の事件であり、エヴァとも今の様な親密な関係ではなかったため、彼女を失った12才のシェリーは一時、非常に不安定な状態におちいった。が、すぐ後の王宮での生活(*)で少なくとも表面上は落ち着きを取り戻している。
 ベルスート城の人々にとって未だに思い出深い人物であり、香茶のコレクションは彼女からエヴァを通し、ルディに引き継がれた。

 *…王家に仕える貴族の子弟は、成人前の2年間、王都で教育を受ける習わしがある。王家への忠誠を学ぶほか、同世代の親交を広げる重要な場でもある。王家への直接の主従関係が基本のため、地方領主などはこれに参加する資格を有さない、一種のステータスシンボルであった。例えば、ソゾン伯爵家は家長である辺境伯を主君とするため、長子であるイオスは特別な期間のみ、次男のケンニヒは御前試合にのみ参加した。また時に他国の有力者も、友好の証として子弟を留学させることがあった。


 チュニパ・ビンズ

 ――『見てーチーピィ君! ご飯がこんなにいっぱい!』
【性別】女  【年齢】13才程度  【職業】暗殺者、厨房見習い

 チーピィ・ビンズ
 ――『ひめさまひめさま! 僕たち頑張りました! 誉めてください!』
【性別】男  【年齢】13才程度  【職業】暗殺者、厨房見習い

 <登場作品>
双子と人肉

 シェリーに仕える双子の暗殺者。任務のないときは厨房で手伝いをしている。
 二人とも明るく無邪気で、言動は年齢よりも子供じみており、屈託がない。比較して言えば、チュニパの方がやや無鉄砲で、チーピィは落ち着いている。
 ホーゼンウルズ辺境伯領のトニエール地方の生まれ。両親と8人の兄弟、そして年上の甥や姪という大家族で育つ。彼らの家族は山中で暮らし、旅人を襲って生活の糧としていた。彼らの目的はしかし人々の持つ金品ではなく、死体そのものにあり、“獲物”を捕らえると彼らはそれを保存し、常食としていた。さらに、一般社会と一切関わることのなかった彼らは、血族同士で交わることで一族の数を増やしていった。
 厳格な父を頂点とした彼らの結束は非常に強く、統率のとれた襲撃が失敗したことは一度としてなかったため、当時トニエールを任されていた役人たちは相次ぐ旅人の消失の原因を究明できないでいた。しかし双子が10才になったある日、トニエール子爵となったシェリー自らの捜査によって一家は一網打尽にされた。主都へと連行された彼らは凄惨な拷問の後、火刑に処される。ただ二人だけがシェリーと何らかの契約を交わし、秘密裏に生かされた。その後必要な教育をほどこされ、シェリーの忠犬として暗殺の任に就いている。一般的な食習慣を知った現在でも食人の衝動は消えず、犠牲者の遺体を持ち帰る特権を与えられている。
 彼らが旨とするのは用意周到に罠を張った一撃必殺の狩りであり、相手の反撃などは予想に入れていない。そのため、戦闘となるとほとんど無力で、また当然誰かを守るために立ち回るようなことも不得手であり、シェリーもこの点には期待していない。ただこの扱いは二人にとって不満なようで、時間を見つけて近衛兵の訓練に参加している。
 シェリーのことを、生前の母親が戯れに創作した物語に沿って『人殺しの姫様』と敬い慕っているが、その根底にあるのは家族を目の前で惨殺された恐怖と、かつて家族の中で絶対的な存在であった父に代わる、強力な統制者を望む心である。双子の悲願はかつてのあたたかく幸せな家族を取り戻すことにあり、シェリーから与えられた家に2人で住み、かつて兄姉がしていた様に体を重ねている。
 彼ら一族の発見は、すわ伝説の食人族の子孫ではないかと一部の学者を熱狂させたが、実際には一組の男女が始めた凶行であったことが、本人たちの自白や周辺に暮らす近親者の証言から明らかになっている。

 マシア・ブッフ
 ――『はー。大変だねえ、ルディ君も。ま、基本的に他人事だけどさ』
 エレイザ・エゲノフ
 ――『全く、お嬢様にも困ったものだわ。ちっとも片付きやしない』
【性別】女  【年齢】共に17才  【職業】洗濯女中

 ベルスート城では洗濯場は館から離れた場所に設けられており、彼女たちはそこで働いている。そのため城主達との面識はほとんど無い。ベルスート城に連れてこられたルディの、汚れた身体を洗ってやったのがこの2人である。その後もたびたびルディが汚れた衣服を持って洗濯場を訪れるため、それなりに知った仲となっており、戸惑うルディに様々な助言を与えている。
 マシアはおおらかで明るいが、反面ドライな所があり、エレイザは物言いがきついが面倒見は良い。2人とも非戦闘員だが、職場が職場なためか妙に肝が据わっている。
 洗濯場は、城内で最も忙しい職場で、戦場にも例えられる。城内で日常的に行われる戦闘訓練の後始末に加えて、城主やその家族は頻繁に衣服を種々の体液まみれにし、台無しになったそれらを元通りにする、あるいは染み込んだ血の跡を隠すために染め直すのも彼女達の仕事である。大きな、そして大概ひどく汚れたエプロンは彼女達のトレードマークとなっている。

 連蕩(レントウ)
 ――『大丈夫ですよ。ゆっくり覚えていきましょうね』
【性別】不明  【年齢】不明  【職業】書庫番

 <登場作品>

 ベルスート城の書庫に住み着いている妖魔。この書庫は別の地にあった古代の図書館を移築したものだが、それと共に着いてきたと言うことから大変な長寿であるらしい。正体不明ではあるが害を為さず、むしろその知識の深さが有用であるとのことから、シェリーの祖父の代から共存を許されている。
 髪の毛のような器官は自在に長さを変え、書庫中をはいずり回っている。半ば自立するそれによって訪問者が絡め取られることも少なくない。初めて書庫に立ち入った者はとりわけ念入りに精査されるが、これは書物を害する者を警戒しているためだという。
 様々な学問に精通していることから代々の城主の相談役となる他、新参者の基礎教育にあたることもある。チュニパやチーピィ、ルディなどは彼から読み書きや一般常識、そしていくつかの歴史を教わっている。非常に穏やかで気が長いため、生徒らの無知を責めることは決してないが、無垢な魂に彼が施すのはエデルカイト家に都合の良い洗脳教育である。
 基本的に知識として以上に人間の文化に踏みいるつもりはなく、一般的な価値観、例えば貴賤や権力からは遠く離れた存在である。そのため図書館の所有者に殊更の関心はないが、ベルスート城の新しい主と目されているシェリーには、彼女が魔術を扱うという点において、これまでの城主とは違った期待をかけている。
 本人は人の知識を糧としていると主張し、事実として、その集大成である書物に強い執着を見せている。しかし、時に取材と称して地下牢の受刑者達の合間を嬉々として渡り歩く姿は異様そのもので、彼が当てにしているのは知識ではなく、人の苦痛や生気そのものではないかとの噂が立っている。

 アスヘール・グランバレ
 ――『灰は灰に、塵は塵に、死体は墓に、だ』
【性別】男  【年齢】17才  【職業】墓守

 <登場作品>

 エデルカイト家の墓廟、及び、主都ベルスートの公共墓地を管理する家の生まれで、本人も墓守を生業とする少年。ベルスートでは、丘の上に立つ城としてのベルスートと、その周囲に栄える都としてのベルスート、それらの城壁の一部分に隣接する形で広大な墓地が設けられている。その中は、一般の人々が入る市民墓地と、縁故者不明の者が入る無縁墓地、エデルカイト家の血縁及び寵臣のための墓廟、そして、戦死者の栄誉をたたえるための壮大な墓碑が並ぶ区画に分けられてる。武勲を尊ぶエデルカイト家の政策の一環として、勇敢な死を遂げた兵士はことさらに喧伝された。
 本人の気質として、陰気で根暗。投げやりな言動が目立つが、墓守としての仕事と、それにまつわる人の死、そして生には常に真摯な態度で臨んでいる。彼の家族の中では、それぞれ死体が出た地区ごとに担当が決まっており、彼はベルスート城の担当者である。そのためベルスート城の主達の戯れで死体が“発生”した際、彼はその合図を見てすぐさま駆けつけ、埋葬の手はずを整える。しかしエヴァがシェリーに仕え、新鮮な死体を頂戴する権利を得てからはその必要性が薄れ、さらに最近は人食いであるチュニパとチーピィが一員に加わったため、なおさら彼が死体を手に入れられる機会は減っている。これが彼のやさぐれ具合に拍車をかけている。
 幼い頃に、城から脱走し街を抜け、墓地に迷い込んだシェリーと出会っており、その時はそれと気づかず、同性、同い年の街の子として一緒に遊んでいた。彼の一族はベルスートの市民から墓守としての必要性、重要性を認識されながらも、忌まれ疎まれ、街への出入りも制限されていたため、家族以外の子供と遊ぶ機会は貴重であった。それぞれの事情で一時疎遠になるも、お互いが14才の時に、墓守見習いと辺境伯の後継者として再会する。以降、対等な友情と言い切れるはずもないが、単純な主従とも割り切れない微妙な関係を続けている。